河童、座敷童、雪女…遠野物語の世界へようこそ。|旅人:井門宗之

2018-07-05

 

井門「なんかさ・・・空気が違うよね。」

 

ゴル「本当ですねぇ、なんか・・・違いますよね。」

 

吉武「そうだね、空気がね。」

 

カッパ本「キョキョキョキョキョ!」

 

 

東京から新幹線で約3時間、KIKI-TABI一行は新花巻の駅にいた。

既に午後6時を回っていたが、まだかすかに夕陽が顔を覗かせている。

 

ゴル「(小林薫さんの物真似で)私はいま新花巻に降り立った。

駅舎から見るその風景は…

 

井門「似てる、似てるなぁ!悔しいなぁそれ!(キャッキャッキャッ!!」

 

ゴル「(小林薫さんの物真似で)美の巨人たち、この後すぐ!」

 

井門「言っちゃったよ!(笑)番組名、言っちゃったよ!(笑)」

 

ゴル「(小林薫さんの物真似で)柳田國男がかつてこの地に降り立った時は、

既に夜の7時だったという。美の巨人たち!!

 

井門「もう色々関係なくなっちゃった!(キャッキャッキャッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

という訳で今回は小林薫さんの物真似から始まりましたが(笑)

何と言いますか、土地の雰囲気がそうさせる・・・と言いますか。

いや、土地の雰囲気で小林薫さんの物真似がしたくなるって訳じゃなくて、

なんか雰囲気のあるトーンでナレーションしたくなっちゃうっていうね。

えっ?カッパ本って誰だって?

それは今回の旅の為に東京から頭の上に皿を仕込んだカメラマンの…ゲフンゲフン。

気を取り直して…コホン。100年前、この花巻から遠野へと向かったのが柳田國男。

その柳田國男が遠野に伝わる物語を集めて記録したのが『遠野物語』です。

そこに出てくるのは河童、座敷童子、神隠し、姥捨てなどなどお馴染の名前ばかり。

この本が出版されると知識人の間で評判を呼び、

いわゆる日本民俗学の発展に大きな役割を果たすことになるのですが…。

今回の旅はこの遠野で、遠野物語の空気にどっぷりと浸って参りました!

 

とは言え柳田國男が訪れた100年前と現代では風景から何から変わってしまっている訳で、

そんな簡単に妖怪達に会えるわけも…いえいえ、会えちゃうんです!遠野では、会えちゃう。

そもそも新花巻の駅前でカッパ本には会えているわけですから。

 

 

カッパ本「キョキョキョキョキョ!」

 

 

それはさておき。(さておいた)

まず我々は河童に会いにいきました(軽い)

向かった先はその名もカッパ淵

 

 

 

 

 

 

 

 

遠野物語の中でも割と登場頻度の高いのがカッパであります。

そして「遠野でカッパを捕まえる事が出来る」というのも割と有名な話。

何やら「ライセンス」があるらしい・・・そしてカッパおじさんがいるらしい・・・。

これは行かねば!と向かった先が常堅寺というお寺です。

実はカッパが捕獲出来るというカッパ淵は、この常堅寺というお寺の裏側にあるんですね。

(因みにこの常堅寺にはカッパ狛犬もいらっしゃいます。)

 

 

 

 

 

 

 

 

常堅寺の境内に入り、本堂の裏側を通ると川のせせらぎが聞こえてくる。

橋から覗くとその水の透明度ったら!

 

 

 

 

 

 

 

 

そして橋の入口にはこんなプレートが。


馬を川に引きこむいたずらに失敗したカッパは、おわびをして許され、

母と子の守り神となりました。常堅寺の火事のさいは頭の皿から水を吹き出して消しとめ、

いまでも一対のカッパ狛犬として境内にその姿をとどめています。

 


おぉ・・・常堅寺にはカッパにまつわる言い伝えが確かに残っているんだ!

そしてどうやらこの沢の奥にカッパおじさんがいるらしい。

ここでお話しを聞かせてくださったのが運萬治男さん。

美しい川が流れる川沿い(沢沿い)を歩いていくと、

その奥に麦わら帽子が“これでもか!”ってなくらい似合うおじさんが立っている。

 

 

運萬「カッパはね見るものじゃないの、出会うものなの。」

 

 

朗らかな笑顔でそう教えてくれる運萬さんこそ、2代目カッパおじさん。

頂いた名刺には『カッパ淵の守っ人(まぶりっと)』と記されています。

 

 

運萬「この守るってのはね、カッパを守るって事ではなくて、

この土地の人達が大切にしてきたこと全てを次の世代に伝えていくってことなの。

でも次の世代が全てを大切にしなきゃいけないか…っていうとそんな事はなくて、

伝わっている事の中から自分達の世代が必要だと思ったことを守っていけばいい。

価値観はそれぞれの世代で違うんだから。」

 

 

そんな中でもカッパ淵においてカッパの話は最重要項目(笑)

運萬さんが首からぶらさげているカードにはカッパ捕獲7ヶ条が記されています。

気になるのはその4。


捕まえるカッパは、真っ赤な顔と大きな口であること。

 

 

 

 

 

 

 

 

運萬「普通皆さんがイメージするカッパって、緑の顔で黄色の口で・・・でしょ?

でもこの辺りにいるカッパは真っ赤な顔で大きな口なの。

実は初代のカッパおじさんが見たカッパってのがそういう姿だったんです。

それ以来、捕まえて良いカッパはそういう姿をしたカッパに限るという事になりました。」

 

 

想像していたカッパと姿が全然違うと思った方も多いかもしれません。

でも柳田國男の遠野物語に登場するカッパはこの姿なんです。

可愛いイメージというよりは、むしろ恐ろしいイメージ。

この『恐ろしい』という事が実はとても重要で。

 

 

運萬「子供にとって川は良い遊び場でもあり、同時に危険な場所でもあります。

だからその川には馬も引きずり込むカッパが住んでいて、

むやみに川に近づくとカッパに引っ張られると教えておくんです。

事故を防ぐための意味合いもあるんですよね。」

 

 

古くからの言い伝えには危険回避の為の「注意喚起」的な要素も含まれています。

勿論その他にも「例え」に変えて土地の大切なものを後世に伝える役割もある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運萬「遠野は寒さが厳しい土地です。

そんな土地だからこそ、大切にしなきゃいけないものが3つある。

お天道様、水、お年寄りの知恵です。

これが座敷わらし、カッパ、オシラサマに名を変えて物語として伝えられているんです。」

*オシラサマについてはまた後ほど。

 

うっそうとした茂みに覆われた川のせせらぎを眺めていると、

今にもそこからカッパが飛び出してきそうな雰囲気も…。

 

 

カッパ本「キョキョキョキョキョ!」

 

運萬「美男・美女は引きづり込まれるから気を付けた方が良いけど、

この釣り竿に新鮮なきゅうりを付けて、カッパ釣りしてみますか?」

 

井門「是非お願いします~!」

 

 

と言う訳で運萬さんにポイントを教えて貰い、いざ!

 

 

 

 

 

 

 

 

運萬「ここにおじさんのおすすめポイントの石があるから、ここに腰かけてやってみて!」

 

井門「あー、この石、ちょっと尖っていて痛っ、痛いっすね!」

 

運萬「座り心地が良いとずっといられちゃうでしょ?(笑)」

 

 

そんなやり取りをしながら半信半疑で釣り糸を垂れて…すぐのことでした…。

 

 

井門「わ~~!!!!

きゅうりが、きゅうりがくるくる回っている!!

 

運萬「いや、ほら、こんな回り方しねぇもん!

普通にきゅうり入れたってこんな回り方しねぇって!

近くにカッパがいていたずらしてんだ!!!

 

井門「見て見て!こんなグルングルン回ってるんだから!!」

 

そうなんです。私の垂れた糸の先に結んでいたきゅうりが、

まるで生き物の様にくるんくるんと川の中で回転し始めたのです。

そしてタイミングを見計らってきゅうりを引き上げると…!?

 

 

運萬「あっ!!ほら、なんかくっ付いてる!!

カッパか!?カッパか!?

あ~、カッパかと思ったら葉っぱだった!

 

井門「上手か!

 

運萬「でもね、これを見た子供達は“カッパが見えた!”って言うんです。

大体子供がカッパを見る事が多いね。でもね、そのカッパに関する不思議な話があって…。」

 

一行「ほうほう…。」

 

 

運萬さんの口から出てくるカッパの物語は不思議だけど、

この遠野の自然の中では“あって不思議では無い”物語に聴こえてくる。

見るものじゃない、会うものかぁ。

あっ、後日談ですがきゅうりがくるんくるん回る動画を見たウチの息子(6歳)、

『あー、カッパが見えた!!』って言ってました(笑)

遠野には、間違いなく今でも静かにカッパが暮らしているんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

カッパ淵から歩くこと5分。

そこにあるのは遠野地方のかつての農家の生活様式を再現し、

昔話や民芸品の製作・実演などが体験出来る伝承園

 

 

 

 

 

 

 

 

古民家の軒先で副支配人の菊池美樹枝さんにお話しを伺いました。

 

 

菊池「伝承園は昭和20年~30年代の遠野の街並みを再現した施設になります。

かつての住宅を移築してその中で語り部の昔話も体験して貰えるんですよ。」

 

井門「屋根の茅葺がまた立派ですね~。

あっ、目の前には蔵造りの記念館がありますが…。」

 

菊池「こちらが佐々木さんの記念館になります。

柳田國男に遠野に伝わる物語を伝えた人物です。」

 

井門「少し中を拝見しましたが、

あの金田一京助先生に“東洋のグリム”と言われた方だったんですね。

そしてこちらでは語り部が語る昔話を聴くことも出来るとか?」

 

菊池「はい、普段は5000円かかるところ、

土日はサービス語り部っていうのをやっておりまして、

なんと無料で聴く事が出来ます!」

 

井門「無料で!(笑)

この番組も予算に限りがございますので、無料は嬉しいなぁ…。」

 

菊池「今日は“子供語り部”といって小学生がやる語り部もありますので、是非!」

 

 

 

 

 

 

 

 

この日の小学生語り部は5年生の吉田君。

半纏を羽織った姿がなんとも言えぬ良い雰囲気で、

古民家の囲炉裏のある風景にふわぁ~っと溶け込んでいます。

吉田君が語り始めたのは家の氏神様のお話し、オクナイサマ。

 

 

吉田「昔あったずもなぁ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

語り部の冒頭は必ず「昔あったずもな」から始まります。

これは「昔々、こんな話がありました」という様なニュアンス。

そしてお話しの結びは「どんどはれ」。話し言葉は全て遠野の方言です。

ゴルちゃん曰く「今回の編集は方言との戦いです」と言っていたけど(笑)

確かにそれくらい、聞いた事のない言葉がぽんぽん飛び出してくる。

その中にある“知っている言葉”を頭の中で抜き出して、

それをエディットして全体の話をぼんやり形作っていきます。

 

 

細越澤「知らない言葉ばっかりでしょ?

でもこれを標準語にすれって言われても、出来ねぇんだわ。

標準語に書く事は出来ても、喋る事は出来ねぇ(笑)」

 

 

そんな風に会場のお客さんに話してくれたのは、

この道17年、御歳77歳の語り部、細越澤史子さん。

 

 

井門「いつ頃から語り部をやられているんですか?」

 

細越澤「60歳になったのをきっかけに始めたんです。

それまでは遠野の昔話なんて全然知らなかったんだから(笑)」

 

井門「えー!!昔から遠野の皆さんは知っているもんだと思っていました!」

 

細越澤「勿論、何となくは知っていますけど、

こうして語り部で語れるほどは知りませんでしたよ。」

 

 

細越澤さんによると、柳田國男が書き記した遠野物語は“実際にあった話”で、

語り部が語る昔話は“遠野に伝わる物語”なんだとか。

 

 

細越澤「だから遠野の昔話は544話あって、

それも後の世に伝わっていくにつれて増えていってるとも言われているんです。」

 

 

だからか…、昔話だからこそ語り部の語る話しは、どことなく幻想的なのです。

細越澤さんもいくつかの昔話を披露してくださいましたが、

その中でもひと際幻想的だったのがオシラサマのお話し。

そう、運萬さんが『年寄りの知恵』の例えとして挙げたお話しです。

 

オシラサマの簡単なストーリーはこう。

昔々、飼い馬に恋をした農家の娘がいた。

器量よしの娘は方々から嫁に迎えたいと声をかけられていたが、

娘は“馬と添う”と言って縁談を全て断ってしまう。

怒った父親は飼い馬を殺してしまうのだが、その時に馬と一緒に娘も天に昇ってしまった。

悲しみに暮れる老夫婦の夢枕にある日、娘が立ってこう言った。

“私は天国で幸せに暮らしています。

でもお父さん、お母さんのこれからを考えると心配でなりません。

これから私がいう事は実際に起こる事です。どうかその通りになさってください。”

夢枕で娘が言うには家の臼にある日、小さな虫たちが現れる。

その虫に桑の葉を食べさせて育てなさい。

成長した虫は口から糸を吐いて繭になる。

その繭から糸を紡いで機を織り、反物に仕立てなさい、と。

果たして数日の後、夢枕の娘が言った通りに虫が現れた。

それを育て糸を紡いで仕立てたところ、美しい反物が出来上がり、

老夫婦はそれを売って暮らしたという事です。どんどはれ。

 

 

細越澤「オシラサマはお知らせの神様とも、馬の神様とも、

そしてお蚕の神様とも言われています。」

 

 

実は伝承園には千体ものオシラサマを祀った御蚕神堂があり、

またお蚕さん達が桑の葉をモリモリ食べている部屋もあります。

語り部の語るオシラサマの物語を聴いてからオシラサマに願掛けすれば、

より遠野の空気を感じることが出来るはず。

伝承園で古き良き遠野を感じてみてください!

 

 

 

 

 

 

 

 

“古き良き遠野を感じる”為に、

続いて僕らが向かった先が遠野ふるさと村です。

東京ドームおよそ2個分とも言われる敷地をご案内頂いたのは、

遠野ふるさと村6代目村長の松本知浩さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

松本「実は昨年、このふるさと村で座敷わらしを見たってお客さんがいたんです。」

 

一行「え~!!!」

 

松本「団体のお客さんだったんですけどね、

エントランスの近くで可愛らしい女の子がワンピースを着て歩いてたそうです。」

 

井門「ワンピースなんですか!?」

 

松本「やはり時代が変わると服装も変わるみたいですね(笑)」

 

 

やはり遠野にはそこかしこに伝承が息づいているのです。

でもふるさと村の中を歩いていると、何がどこから現われても不思議じゃない(笑)

ここは遠野の古民家を移築し、遠野物語の頃の遠野を再現した施設。

遠野はオシラサマの話にも出てくる通り、馬を大切にする地域です。

遠野の古い民家は“曲がり家”と呼ばれ、上から見るとL字型になっているそうな。

 

 

松本「中に入るとよく分かるんですが、

馬が暮らすスペースと人の居住スペースを繋げてあるんです。

だからL字型になっているんですね。遠野の人は本当に馬を大切にします。

ですから居間の襖を開けると、すぐ馬の様子が分かる造りになっているんですよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古民家は全て中に入る事が可能で、

大きな造りはかつての豊かさを物語っているかのよう。

 

 

井門「あっ!実際に中に馬がいるんですね!!」

 

松本「はい(笑)当時の暮らしを再現するという意味で、馬も飼っているんですよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

畦道を歩けば川のせせらぎが聞こえ、

水車が心地いいリズムでくるくると回っている。

そうして引いた水は水田を潤し、地元の子供達が植えたもち米を育てる。

果てしなく広がる空から視線を落とすと、

色濃くなった山の緑のグラデーションが岩手に夏が来た事を教えてくれる。

 

 

井門「松本さん、本当にいい所ですね!」

 

松本「有り難うございます。是非ここは時間に追われずに過ごして欲しいですね。

基本的にはここでは何をしてもOKですから!

前なんか民家の座敷で昼寝しているお客さんもいらっしゃいましたからね。

閉館時間までにお帰り頂ければ大丈夫です(笑)」

 

井門「子供を連れてまた来ます!」

 

松本「お子さんは勝手に遊びを見つけますからね!

ここに来ればきっと1日中遊んでいられますよ!」

 

 

残念ながら今回、座敷わらしに会う事は出来なかったけれど、

ひょっとして子供だったらいつの間にか一緒に遊んで友達になっているかもしれない。

“ふるき良き遠野”の姿は間違いなくここにあります。

松本村長!素敵な時間を有り難うございました!!

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に僕らが訪れたのは、

遠野の田園風景を眼下に見下ろす、デンデラ野。

今は長閑な風景も、ここにはかつて「姥捨て」という悲しい習慣がありました。

世界有数の長寿国ニッポンでも、

生きる時代が違えばこうも違うのかと実感させられる、そんな場所です。

遠野物語も遠野に伝わる昔話も、決して楽しいだけの話ばかりではありません。

後世に伝える為の大事な何かが、そして遠野の全てが詰まっているのが、

遠野物語であり、遠野に伝わる昔話なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

2018年の現代にも、かつての遠野を偲ばせる風景は沢山残っていました。

そんな遠野で土地の言葉で語り部の昔語りを聴けば、

きっとより豊かな時間を過ごすことが出来るはず。

大人になるにつれ忘れてしまった童心を取り戻せば、

きっとあなたの前にも座敷わらしが現れるはず(笑)

 

今年の夏はあなたも、“何か”に出会いに遠野に出掛けてみませんか??

 

 

カッパ本「キョキョキョキョキョ!」