東北応援SP 三陸の旨い物編|旅人:井門宗之
2012-12-13
震災から2度目の年の瀬。
東北はこれから厳しい冬を迎えようとしている。
しかし寒い時期だからこそ食べ物も美味しい季節になるのも事実。
何よりこの放送を聴いて、美味しい物を食べに(そして自分に出来る事を探しに)、
被災地を訪れて欲しいと、そんな気持ちで今回の旅をスタートさせる事にしたのであります。
スタートは気仙沼市南町紫市場。
ここでオープニングやエンディングを喋るのも今年3回目だ。
(以前お世話になった揚げたてコロッケ屋さんでテツヤはホクホクコロッケを頬張る。)
今年最初に来たのは真冬の2月。
次は海開きの7月。
今回のロケは、年末に差し掛かる直前の11月末だったので、
まだ町には少しだけゆったりとした時間が流れていた。
いや、我々はのんびりしている場合ではない!
旅の目的は三陸を北上しながら、美味しい物を求めること。
まず車を走らせ向かったのは大船渡市にある酒蔵・酔仙酒造さん。
もともと震災前は陸前高田市にあったのだが、津波被害により一時休業。
その後、陸前高田市から大船渡市に移転することになり、
今年の8月20日には、新工場も完成して再始動を果たした。
そう言えば丁度ぼくらが酔仙酒造さんを訪ねた時、
こちらでは倉庫を使って「ケセン復興コンサート」が開かれていた。
お酒のケースをぐるりと積み重ね、フルートとクラリネットの音色が響く。
天井は高く、その反響に気持ちよく耳を傾けている大勢の地元の方々。
初冬の岩手、扉を開ければ肌を切る様な冷たい風が吹いているが、
この中にはやわらかく温かな空気が流れている。
会場のお客さんは年齢層も様々だ。
すると、不意に子供が歌い出した。演奏者が奏でていたのは“カントリーロード”。
勿論、この子達が知っているカントリーロードは映画「耳をすませば」の方だろう。
“カントリーロード この道 ずっと行けば あの町に続いてる 気がする カントリーロード”
目を閉じて音色を聴いていると、今度は懐かしいメロディ…“ふるさと”。
そうだ、これは「ケセン復興コンサート」。
ここにいる誰もがこの音色を聞きながら、自分の生まれ育ったこの町の、
故郷の昔とそして未来の姿を思い浮かべている様な気がしてならない。
そして未来の姿を思い浮かべる…と言えば、
酔仙酒造の未来の姿だろう。
我々は、酔仙酒造 製造部の金野泰明さんに工場をご案内戴きながら、
今のお気持ちを伺った。
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酔仙酒造は震災による津波で、工場は壊滅。
敷地は瓦礫の山となり、建物も倒壊してしまった。
しかし茫然とする社員達の目に、信じられない光景が留まった。
建物の鉄骨部分にたった一つだけ、酔仙の酒樽がぶら下がっていたのだ。
これは勿論偶然だろう。
しかし酔仙酒造の再生への物語はここから始まったのだ。
時間をかけ新たな工場の場所を探し、良い水を求め、
ようやく大船渡蔵が完成したのが…今年の8月22日。
震災直後はわずかな銘柄しか販売出来なかったのが、現在は少しずつ回復。
来年にはまた銘柄も増やしていくと言う。
ちなみに我々は酔仙酒造さんの名酒「雪っこ」で、
しっかりとこの日の夜は身体を温めたとさ(笑)
*物凄く呑み易いお酒なんですけど、アルコール度数が高いのでお気をつけあそばせ。
金野さん、これからの酔仙酒造、ますます期待しています!
続いてはこちらも大船渡の「復興居酒屋がんばっぺし」。
夜の闇の中に煌煌と明かりが灯るその姿はまるで漁火。
こちらでお話を伺ったのは鎌田直樹さん。
地元の若者で賑わう店内でお話をお伺いした。
鎌田「大船渡は震災から1年8カ月が過ぎても、
夜に若い人の集まる場所、遊び場が一軒もないんですよ。一軒もですよ。
それを何とかしたかったんです。
今ではこの横にスポーツBARを併設しているので、
結婚式の2次会や3次会で利用して戴く流れが出来ました。」
元々地元を離れ、横浜にいた鎌田さん。
震災で壊滅的な被害を受けた地元の為に何とかしたいと立ち上がったのだ。
鎌田「大船渡には当時働きたくても働く場所がない若いヤツが沢山いました。
そういうヤツらを丸ごと横浜に呼んで、そこで復興居酒屋をやったんです。
大船渡を丸ごと横浜に移した感じでしょうか。
お客さんは三陸の海の物を食べ、お金を払う。
そして払ったお金はそこで働く子達に支払われる、と。」
今は横浜の店は無く、がんばっぺしは大船渡に戻ってきた。
とは言えこの店舗も営業期間は限られているという。
何故ならこの場所が復興計画では“かさ上げ”の対象地域だからなのだ。
鎌田「でもどけても営業する場所は無いのが現状なんです。
だから一旦横浜に戻る事も考えています。
だってここにいる子達は、毎日働くことが大切で、
毎日お客さんと触れ合わないと意味が無いんですよ。
まぁ、その前に今年初めてここは冬を迎えるんで…、
このビニールハウスが雪に耐えられるか心配なんですけど(笑)」
熱い思いを一生懸命に語ってくれる鎌田さん。
我々のBGMは楽しむお客さんの笑い声だ。
鎌田さん、今のお客さんの笑顔を見ていかがですか?
鎌田「最高です!幸せです!!」
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鎌田さん、ありがとうございました |
この日は我々も三陸の海の幸をたっぷりと堪能させて戴いた。
もうね、どれも口に入れるとびっくりする程の旨味なんです。
これが三陸の海の恵みでしょう。
冬本番のこれからが、ますます海の幸が美味しい季節。
この味は皆さんにも味わって戴きたいなぁ…。
こてんと三陸の海の幸とお酒に酔いに酔いしれた、その翌日。
我々は三陸海岸を北上し、一路釜石へと向かった。
最初の目的地は釜石の駅前市場「サン・フィッシュ釜石」。
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お話を伺ったのは専務理事の八幡雪夫さんである。
サン・フィッシュ釜石は店舗としては震災後最も早くに再開(4月1日)。
魚などを売る店舗は全部で14店舗。
地元の漁港で水揚げされた物を中心に販売している。
八幡「漁港はもう再開しているのでね、いまは鮭です。
12月~毛ガニも解禁になるんで美味しいのが並びますよ!」
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井門「確かに今は新巻鮭の美味しそうなのが吊るされてますもんね!?」
八幡さんは市場が活気を取り戻しているのは、
何よりお客さんのお陰だと仰る。
この日も朝早い時間にも関わらず県外からのお客さんの姿も目立った。
これからの発展と美味しい恵みを祈りつつ、サン・フィッシュ釜石を後に。
車は更に北上する。
お邪魔したのは大槌町の「おらが大槌復興食堂」。
店長の岩間美和さんにお話しを伺った。
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こちらの復興食堂は今年の震災の年の11月11日にOPEN。
店を始める前は、当時ボランティアの方々が食事をする時、
みんな地べたに座って食べていたという。
もちろん食べている物は冷たいものばかりだ。
そんな人達を見て“人がちゃんと集まれる場所”、
“テーブルや椅子がある場所”を作りたい!と思ったのが店をスタートさせるきっかけだったとか。
ただ店の経営は楽観出来るものではない。
ボランティアの募集も打ち切り、町には人の数が少なくなった。
加えて元々地元の人達は「外食」という文化があまりない。
当然、時間が経つにつれて店の経営は右肩下がりである。
それでも岩間さん達は「何か出来る事はないか!?」と打開策を練り上げている最中だ。
現在は大槌に宿泊施設は無いのだが(震災でだめになってしまった)、
それが完成すれば少しこの町で商売する人も潤うだろう。
歩みを止めず、前を向いて進む姿。
我々に出来る事は今のその姿を伝える事だけだが、
何とか道が拓けて欲しいと切に願う…。
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まだまだ進むぞ、三陸の旨い物探しの旅。
続いては三陸山田の名物かき小屋。
山田町は震災の大津波で、小屋が全壊してしまったのだが、
2011年10月29日に場所を移して「復興かき小屋」を新たにオープン。
我々は元気に再開をしている、
「復興かき小屋」の沼崎真也さんにお話しを伺った。
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この「かき小屋」の熱気が凄いのなんの(笑)
我々は一応お店の入口手前で沼崎さんにお話しを伺っていたのだが、
そこも既に物凄い「磯の良い香り」がするのだ!
インタビューしながらも牡蠣の香りに包まれている感覚、
そう、YAJIKITAが牡蠣の殻に包まれているかのような…。
殻付きYAJIKITAになったような…(それは無い無い)。
しかも今回は沼崎さんの計らいで我々も牡蠣を戴けることに!
一つのテーブルに通されたのだが、
この「かき小屋」はダイナミックさが物凄い。
大きなテーブルにお父さんがスコップで殻付きの牡蠣を「わさわさわさ~」と掬い、
豪快にテーブルの上に(テーブルはガスで火がつけられた鉄製のもの)、
「どーん!!!!」と撒かれる(笑)
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蒔かれた牡蠣はその上から大きな蓋をするので、
牡蠣の水分で牡蠣自身が蒸されて、何とも上等な“蒸し牡蠣”の完成なのだ。
蒸しあがった牡蠣は地元のお母さんが一生懸命剥いてくれる。
そのテンポの良いこと…。ほいっ、ほいっ!食べなさい、食べなさい!ってなもんだ。
さすが山田の牡蠣。
殻付き牡蠣の出荷が日本一だった時期もあったくらいで、
その味の濃厚さは“海を丸ごと食べてる”感じなのである。
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ごちそうさまでした!!! |
流石に土日は予約しないと入れない程の大人気だが、
期間は来年5月6日までとの事なので、是非みなさんにも体感して戴きたい!!
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今回の旅は「三陸海岸美味しいもの巡り」だったわけだが、
正直行かないと分からない事だらけだった。
震災から2度目の年の瀬を迎えても、大船渡では若い人達の遊び場が無いとか、
酒蔵の銘柄がどの程度増えてきたのか、とか。
行かないと見えてこないのだ。
そして今の季節なら尚更、行けば三陸の素晴らしい海の幸にも出会える。
皆さんにも是非、あの味を味わって欲しい。
自然の厳しさが育んだ、あの味達を。
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