上野の森で、芸術の秋|旅人:中田美香

2013-10-17

 

目の前にぱぁ~~~っと上野恩賜公園の案内図を広げてみた。
春になるとお花見に出掛け、今のこの時期は色づいた紅葉鑑賞へ。
これまで何度も訪れている公園だけど、改めて案内図を眺めていると、美術館や博物館、コンサートホールなど、日本有数の文化施設が10カ所以上も存在していることに気付く。しかも国の重要文化財になっている建物も多いのだ。これってスゴい! 人のココロを豊かにしてくれる宝物たちが集結しているのだから・・・。
今回のヤジキタは『上野の森で、芸術の秋』を堪能!
ただ、そこはヤジキタ!ド直球な芸術鑑賞ではございません。
視点をグルっと変えてみましたので、お楽しみに。

 

まず向かったのが「国立西洋美術館」。

 

 

 



 

 

我々が訪れた際は『ミケランジェロ展』が行われていたが、私たちの目的はその特別展ではなく、“建物”そのものだ。
言うまでもなく、「国立西洋美術館」の本館を設計したのは、20世紀を代表するフランスの建築家、ル・コルビュジエ。
その巨匠が設計した美術館を巡る「建物ツアー」なるものがあるというのだ。
案内して下さったのは、主任研究員の寺島洋子さん。

 

 

 


寺島さんに、ご案内いただきました

 

 

絵を楽しむと同時に、建物そのものも美術品として鑑賞しようという発想って、素敵。しかも参加は無料!!!

 

美術館の中に一歩足を踏み入れると目を引くのはドーンとそびえ立つモルタル剥き出しの無機質な円柱。さらに天窓からは柔らかい陽光が降りそそいでいる。
建物の細部はどれもこれも個性的で、ハッとさせられたり、思わず見入ってしまったり。

 

2階へ上がるには階段ではなく、傾斜のゆるやかなスロープが設置してある。
バリアフリーを意識した、いわゆるユニバーサルデザインの先端をゆくのか?と一瞬思ったのだが、(寺島)さん曰く「これも“少しずつ展示室の眺めが変わっていくのを楽しむ”というコルビュジエ趣向」なのだそうだ。
ほぉーーー!へーーー!ははーーーん!の連続である。

 

実際にスロープをゆっくりと上がって行くと、まるで登山をしているかのように、館内の眺めが徐々に変化してゆく。

 

とかく正面から鑑賞することが多い美術作品も、スロープの存在によって、さまざまな角度から見ることができて、新たな魅力を発見できたりする。
スゴい!スゴい!
「コルビュジエの設計は、人のサイズと黄金比によって定めた寸法を使用している」らしい・・・。
だから高低差のある天井も、壁面の模様も、照明の角度も、どれもこれも全て計算しつくされた寸法だということなのだ。
スゴい!スゴい!もースゴすぎる!ただただ感心&脱帽です・・・。

 

 

続いては、こちらも“建物萌え”のひとつといえる「国立科学博物館」へ向かった。

 

 

 



 

 

重要文化財に指定されていて、建物を上から見てみると、飛行機のカタチをしている。
なぜ飛行機なのか?
それは、飛行機が当時の先端技術の象徴だったからだそうだ。
人間が空を飛ぶということがまだまだ珍しかった時代のお話・・・。月日の流れを感じるなぁ。
案内して下さったのは、ニコニコッと素敵な笑顔を浮かべ、優しい語り口でお話をして下さる広報・常設展示課の原田光一郎さん。

 

 

 


原田さんに、ご案内いただきました。

 

 

建物の正面玄関に入ると、3階までの吹き抜けになっている。
頭上を見上げると、そこは見事なドーム型の天井に美しいステンドグラス!
さらに、壁面や手すりなど細部にわたり豪華に、重厚に創られている。
(はらださん)が「ネオ・ルネッサンス様式というのですよ」と教えて下さった。改めて昔の日本建築って素晴らしいなぁ。
思わず、口を開けたまま、天井をぼぉーっと見上げて立ち尽くしてしまった。

 

 

 

 

 

さらに「国立科学博物館」内の常設展示もご紹介頂いた。
実のところ、ワタクシは科学が大の苦手で、学生の頃はいつも赤点ギリギリだった。でも原田さんの丁寧で分かりやすい説明を聞き、館内の工夫の凝らされた展示方法などを見ていると、苦手意識がふぅっと吹き飛んでしまう。
童心に戻って、ワクワクなのだ。
地球館3Fの展示室には、ナント400体もの動物の剥製があって、そりゃあもう圧巻。これだけ多くの動物の標本を間近でマジマジと見る機会なんてない。かなりリアルで、一斉にこちらを見ているような感覚すら覚えた・・・。夢に出てきそーーー(汗)。

 

 

 

凄い迫力だけど、ちょと夜は怖そう

 

 

フト足下を見ると、上野動物園にいたパンダ“トントン”と“フェイフェイ”も展示されていた。
思ったよりも小さい? でもやっぱり愛らしい表情をしてる。

 

 

 



 

 

続いて、小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰ったという、小惑星“イトカワ”の微粒子を見学!
ワォ!はじめて、月以外の天体から持ち帰られたサンプルですぞぉ。ワクワク&ドキドキ。
光学顕微鏡だからこそ微粒子を拡大して見ることができるそうで、覗いてみると、小さい石ころのようなものがライトの光を受けて幾重にも色合いを変え、輝いていた。
まさにロマンですなー。

 

 

 

 

顕微鏡の映像が、モニターに映し出されています

 

 

最後は「日本のアザミの秘密」なる特別展だ。
特別展の案内をしてくれたのは、企画展示課の濱村伸治さん。

 

 

 


濱村さんに、ご案内いただきました

 

 

アザミですよ!植物のアザミ!そのアザミだけを題材にして特別展を開催するって、スゴい。

 

見学していると、なるほどアザミの奥深さが理解できる。
日本列島にはさまざまな種類のアザミがあって、まさにアザミの王国なのだそうだ。そして日本産のアザミは150種以上存在し、実に多様性に富んでいるとのこと。

 

 

 



 

 

例えば、アザミは食べることも出来る。また上をむいて咲くアザミだけではなく、下を向いて咲く花もあることを知った。
なんといっても、研究者の並々ならぬ思いに脱帽だ。
目の前の作品を眺めながら、ひとつの事柄を突き詰めて行く大切さを実感した。 



ここで、ちょっとお散歩気分で谷中へムーヴ!
上野公園のお隣にある台東区谷中は、お寺も多く、古い住宅が佇み、まるで昭和にタイムスリップしたような風情がある。
ブラブラとお買物をしたり、ほそーい路地を散策してみたり、食べ歩きをしてみたりと、懐かしさもあって、楽しい街だ。
ここに「SCAI THE BATHHOUSE(スカイ・ザ・バスハウス)」という現代美術のギャラリーがあると聞いて訪れてみた。
瓦屋根で風情あるたたずまいのそのギャラリー。
中に入ると、モルタルの床に真っ白い壁面。
昔ながらの雰囲気と現代的なデザインのギャップにオドロキだ。

 

スタッフの杉浦亜由子さんにお話をお伺いすると、
ここは最先鋭の日本のアーティストを世界に向けて発信したり、日本ではまだ紹介されていない海外の優れた作家を積極的に紹介することをコンセプトにしたギャラリーなのだそうだ。

 

 

 


杉浦さんに、お話を伺いました

 

 

“バスハウス”の由来はというと、この建物がもともと200年の歴史を持つ由緒ある銭湯だったからだそうだ。
銭湯をリノベして、ギャラリースペースにするってアイデアがこれまたイマっぽい。

 

 

 



 

 

紹介されるアーティストによって、このギャラリーがさまざまな表情を見せてくれるのだろう。空間そのものもアートだなぁと感じたひととき。

 

谷中散歩後は、再び上野の森へ戻り「東京国立博物館」へと向かった。

 

 

 



 

 

入った瞬間、ザワザワ、ザワザワ、キャーキャーと大騒ぎ。
というのも、ここはドラマ『半沢直樹』で頭取、専務と常務が対峙していたあの重厚な大階段のロケ地なのだ。
ミーハー心まるだしで、ワタクシもスマホでパチリパチリ>エヘ。

 

 

 


ロケで使われた階段

 

 

「東京国立博物館」には、日本を中心に東洋の文化財を収集・保管すると同時に、それらの調査研究も行っている。
国宝級ならぬ、まさに“国宝”を数多く保有している博物館だ。
本館の展示室をキョロキョロ見学していると「あっ、教科書で見たぞ」「あの作品、本で見たことある」と、馴染みのある貴重な文化財が多い。

 

 

 

 

 

 

興奮冷めやらぬまま「東京国立博物館」学芸企画部企画課長の井上洋一さんにお話を伺った。

 

中田:「外国人の方も多いですね」
井上さん:「日本人の多くはフランスに行けば“ルーブル美術館”へ行き、イギリスでは“大英博物館”へ行く。だからこそ、日本人としてこの“東京国立博物館”を見て、我々の歴史を知って欲しいのです」

 

日本人として、自分の国の歴史や芸術作品に触れて、見て、知っておきたいと強く感じる。
こちらの常設展、常設とは言っても、年間300回も展示品の入れ替えが行われている。

 

井上さん「日本美術作品は光に弱く、年間通じて数週間しか展示することが出来ないのです」。
中田:「ならばなおのこと、何度も足を運んで、なるべく多くのものに触れたいです。その作品に次に出会えるのは、いつか分からないですもんね」

 

 

 


井上さん、ありがとうございました

 

 

日本で最も古い歴史を持つ「東京国立博物館」。
「本物に沢山出会い、その作品と向かい合って、対話をしてほしいな」
井上さんのコトバが深くココロに残った。

 

圧倒的な芸術作品の数々は、見れば見るほど人の心を豊かにし、感性の扉をたくさん開けてくれるように思う。
過去、美術館に行くきっかけの多くは、派手なイメージのある特別展目当てが多かったように思う。でも、今回は常設展の楽しさや面白さに改めて気付かされた。

 

また、何年もかけて展示会の予定を決め、交渉をし、神経をすり減らしながら、大切な作品を大事に扱い、見るものが楽しめるように、大勢の関係者が知恵を絞って、そうしてはじめて展示が行われるのだ。
そういった表には出てこない陰の努力があってこそ、古から引き継がれたさまざまな芸術作品を我々が眺めることができるのだ。
いつもとちょっと視点を変えると、その作品が何倍も何十倍も魅力的に見えてきたりするから不思議だ。

 

よし、今年の秋は芸術三昧といくぞぉ!