東京発どこ行くツアー 下北沢編|旅人:井門宗之
2012-10-11
ついにいらっしゃった!!
東京発どこ行くツアー下北沢編であります。
下北沢と言えば、ある朝の生放送で“井門の住む町”としてマンションまでバラされ…、
しかもそれを知ったリスナーズが来京の際、
わざわざ家の写真を撮って帰るという事態にまでなった歴史のある街だ。
*なんの歴史じゃい。
では「下北沢」と聞いてまずパッとどんなイメージが出てくるでしょう?
ライブハウス、芝居、ヴィレッジヴァンガード、古着、若者、サブカルチャー…etc.
きっと出てくるのはそんな単語でしょうか?
いや、実は僕もこの町に暮らす前、
特にあまり来た事の無かった上京当初はそんなイメージでした。
だからこの町に遊びに来る時にはある程度「お洒落」をして来たもんです。
でもね、大人になって暮らしてみて、この町のイメージはガラっと変わった。
今の僕の中にある下北沢のイメージは「住宅街」(笑)
え~!?っと思うリスナーさんもいらっしゃるかもしれません。
だけど、今回の旅を最後まで聴いて頂けたら、納得して貰えたと思うんです。
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下北沢は東京駅からだと中央線で新宿まで、
そこから小田急線に乗り換えておよそ30分ほど。
しかも井の頭線とクロスする駅でもあるので、渋谷も吉祥寺も出やすい。
住んでいた頃は新宿、渋谷、原宿、吉祥寺という主要駅に簡単にアクセス出来たので、
物凄く便利に生活していた記憶があります。(半蔵門までも30分くらい)
なので当然、この町には人が集まります。
それは老若男女、まさに年齢問わずといった感じ。
土日祝日は若者が、平日は暮らしている人達が、この町には目立ちます。
いわゆる「住みたい町ランキング」では常に上位に食い込んでくる下北沢。
しかし今回の作家:コバヤシ親分がこんな事を…。
親分「下北沢ってさ、住みたい町ランキングでは上位なんだけど、
住んで良かった町ランキングでは圏外だったりするんだよね。不思議と。」
井門「でも僕は住んでて良かった町だと思ってますけどね…なんでだろ?」
これは意外とこの町を考える時に大切な事なのかもしれません。
この町を刺激溢れる若者の町!!って言う風に捉えて、
そうやって住んでみると案外そんな事もなかったりする(勿論元気な場所はたくさん)。
それよりも「下北沢は住宅街なんだ!」って最初から分かって暮らせば、
こんな快適な町はないのではないかと思ってしまうのです。
今回の旅、まずは下北沢ポータルサイト「ぶらり下北沢」の鍛冶川直広さんと、
この町をぶらりする事から始まりました。
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井門「鍛冶川さんは生まれも育ちも下北沢なんですよね?」
鍛冶川「途中違う時期もあるんですけど、基本は下北沢です。」
井門「普段はどこで呑まれるんですか?」
鍛冶川「あ~よく行ってた○○ってお店がこの前閉じちゃったんですよねぇ。
17年下北沢で頑張ってきたんですけど…。」
井門「!!!!!!!!!」
鍛冶川「ど…どうしました?」
井門「そこ、僕も常連だったんです…。
最近顔出してなかったんですけど、そんな急に…。
マスターに御挨拶もしてないのに(涙)」
という訳で今回の旅はいきなりしょんぼり情報からゲット!
この日もロケが終わったら親分を連れてそこで一献…なんて思ってたのになぁ。
でもこういう情報も下北沢を象徴していると思います。
17年続いても立ち行かなくなってしまう事もある。
下北沢は5年も続いたら立派な部類。
それぐらいこの町で何かお店を開くのは大変なことなんです。
しかも“良い店”や“美味しい店”が残る訳ではなくって…。
僕が好きだったお店もcaféもどんどん入れ替わっていく。
それも下北沢の表情の一つでしょう。
井門「でも下北沢のいわゆる地元の活気ってのは、昔と変わらず…なんですよね?」
鍛冶川「はい、この町は他の町に比べて商店街の人達の温度が高いんだと思います。
何かをやろうという気持ちがとても強い。」
井門「商店街っていくつあるんですか?」
鍛冶川「全部で6つですね。」
下北沢には実は下北沢と言う町名は存在しない。
駅を中心に北沢、代田、代沢という町名のエリアを下北沢周辺と呼ぶんですね。
そのエリアの中にそれぞれ個性的な商店街があるんだけど…6つもあったとは(笑)
鍛冶川「下北沢は関東大震災で町がやられた時、
浅草の方から職人さんが来てそのまま住みついた…っていう歴史がある様です。
なので実は世田谷区なんですけど、とても下町な感じがあるんですよね(笑)」
井門「あぁ!だからお祭りがあんなに熱気溢れてるんだ!」
ちょうど僕が暮らしていた所の商店街は【代沢通り共栄会】というんだけど、
お祭りの時期になると神輿や屋台が所狭しと商店街を練り歩きます。
年に一度のお祭りを心から楽しみにしているマインド、
思い出すと、それは確かに下町っぽいじゃないですか!
井門「でもやっぱり下北沢でお祭りと言えば“天狗様”なんですか?」
鍛冶川「あぁ、僕は家が南口なので、お祭りと言えば北沢八幡様です。
天狗様は北口で暮らす人に馴染み深いでしょうね。」
そうなのだ。(今回“そうなのだ”が多い気がする)
下北沢はざっくりと南口エリアと北口エリアに分かれていて、
その表情も全く違ってくるんです。
実は北口を象徴する場所として【下北沢駅前食品市場】がありますが、
ここも北口の広場を整備する為に平成26年までに取り壊されるとか。
僕が暮らしている時は、もう少し賑わっていたんだけどなぁ…。
区画整備や消防法の問題で古い建物は壊されてしまう。
でもこの古さも含めて下北沢だと思っている人にとっては、
風景がひとつ、またひとつと消えてしまうのは、寂しい事だろうなぁ。
井門「下北沢の町を楽しむ方法ってなんでしょうね?」
鍛冶川「それこそぶらり歩く事だと思います。
目的が無くてもふらっと入ったお店がとても面白い事があるし、
町自体が大きくないので、ゆっくり見て回ると必ず発見がありますよ!」
井門「意外と目線を上にしても、
建物の2階・3階に良いお店があったりしますしね。」
鍛冶川「そうですね。この町でお店をやっている人の個性も面白いですし。
まずはぶらぶらして欲しいと思います。」
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親分「井門君さ、今度はあの横丁をアレしちゃうよ!」
井門「まさか…あの!?」
僕らが訪れたのは茶沢通り沿いにある「鈴なり横丁」。
1階がレトロな飲食店街、2階はザ・スズナリという劇場になっている不思議な場所。
横丁の外観をご覧になって頂けるとお分かりと思いますが、
一見さんはとても入りにくい…(笑)
親分「実はここの中に面白いBARがあるんだよ。うひひ。」
井門「えっ…BARですか?」
BARの名は「Giraffe(ジラフ)」。
キリンの名を持つこのBARは、横丁の奥にひっそりと佇んでいる。
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店に一歩入るとそこはどこもかしこもキリンだらけの不思議ワールド。
赤い照明に怪しく照らされたカウンターのみの店内は、
そこにいるだけで何だか違う時代に迷い込んだ気にさせられてしまう。
赤い照明の店内 |
スタッフの中野恵子さんにお話しを伺った。
井門「お客さんはどんな方が多いですか?」
中野「色んな職業の人が来ますよ。でも地元のおじいちゃんとかも来るかな(笑)
下北沢は人の繋がりが密ですよね。そこが面白いんだけど。」
井門「こちらのお店も何だかキリンがいたり、
泡盛の一升瓶の後ろに洋酒が並んだり…でも何だかとても整然と見える。
下北沢もこんな感じありますよね、友達の家に来たっていうか。」
中野「あぁ、そうですね。
このお店は下北沢に系列店があって、そこも面白いですよ。
シロクマって名前とカエルって名前なんです。
なんでここだけ英語なんだかは分かりませんけど(笑)」
店が個性的で面白ければ、人は集まる。
そして人は、集まればまた人を呼ぶ。
夜の下北沢に繰り広げられているのは、そんな風景。
人は持て余した夜に適度な寛ぎを求め、
何が起こるか分からない刺激に吸い寄せられる。
“あの店はどんな人が飲んでるんだろう?”
夜の下北沢を楽しむには、そんなワクワク感も必要なのだ。
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とても人懐っこくて、素敵な女性だった中野さん。
彼女がカウンターの向こうで待ってると思えば、
ついつい寛ぎに行ってしまいそうだ。
そんなお店が下北沢で一つ見つけられて、ちょっと嬉しい。
別れ際、通りまで出てきて手を振り続けてくれた中野さんに感謝。
続いては下北沢を象徴する音楽の発信基地。
mona records。
知る人ぞ知る音楽の総合施設であり、インディレーベルでもあります。
ここを立ち上げ、店長もやられているのは行達也さん。
もともとはタワレコ新宿店の副店長を務めていた方なのだが、
独立してこの場所にmona recordsを構えた。
井門「なぜ下北沢でこういうお店をやろうと思ったのですか?」
行「ええ、caféでレコードも置いて、ライブスペースもあって…。
そんなお店がやりたかったんですけど、
そういう店はどの町が合うかなと考えていたら、下北沢だったんですよね。」
井門「お客さんはどんな方がいらっしゃいます?」
行「色んな方がみえますよ。この前は気付いたら女優の○○まさ○さんが来てて、
声はかけられなかったですけど(笑)」
井門「お店の奥にはお座敷もありますもんね?」
行「休日はそれこそ色んな場所から若い方も来てくれますけど、
平日の昼間はもう凄いですよ!子供連れのお母さん方の多い事(笑)
予約で大人10・子供10とか言われたりもします!」
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行さんは下北沢を“一言で言うと住宅街ですから”と仰った。
だからこの町に来る時には肩肘張らずに、
あまりキメキメで来なくて良いと。
平日の昼間はお母さん達が遊びに来る様に、
Giraffeに地元のおじいちゃんが飲みに来る様に、
この町は歩く範囲を少しだけ広げると意外な程、住宅街が顔を覗かせるのだ。
そしてこの町の個性は、外から来た人達だけに作られるのではなく、
中で暮らしている人達によっても作られているのだ。
行さんの話を聴いて、なるほどと思う。
そう言えば鍛冶川さんが話してたっけ。
鍛冶川「この町は変わった人が多いですよね。
昼間にスーツを着て歩いていると、その方が浮いちゃう(笑)」
音楽や芝居を志す人にとっても、ステータスである下北沢。
モナレコードも現在は3階にLIVE SPACEを作り、
様々なアーティストに場所を提供している。
強い個性は、その強さを受け入れる側も強くなくては、
成り立たないのかもしれない。
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若い才能の手助けをする場所は、
「映画」というジャンルでも下北沢に存在します。
それが南口の奥にある映画館「TOLLY WOOD(トリウッド)」。
ここはいわゆるショートフィルムを上映する映画館だ。
古着屋の2階にまさにひっそりと存在するトリウッド。
僕もむかし友人が監督する映画の上映をここで観たりした。
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我々はスタッフの田村唯さんにお話しを伺った。
井門「こういう映画館があるからこそ、
若手の監督にとっては作品を人の目に見せられる良い機会が生まれますよね?」
田村「はい、監督にとってはお客さんとのガチンコ勝負ですからね。
ここから巣立っていく監督さんも多いです。」
井門「学生の為のプロジェクトもやっていると聞きましたが?」
田村「学生に商業映画を撮る事を課してプロ意識を向上させるんです。
お金を払って作品を見て貰う事の覚悟を養うのが目的です。」
井門「それは後にDVDになったりもするんですか?」
田村「商業映画ですから、DVDにもなります。
学生達には“まず見られる事ありき”で作品を作ってもらっているんです。」
下北沢は若い個性を誰も邪魔しない町…田村さんはそんな風に話してくれた。
伸び方を知らない若者に、伸び方を教えてくれる町。
“高く飛ぶ為には、目線は一度下がるけど、膝を曲げる事が大切なんだ”
そんな風に教えてくれる町だと。
トリウッドではきっと今日も、
若い才能が伸びる為の努力をしていることだろう。
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下北沢に才能が集まるというのは、何も今に始まった事ではない。
南口を更に三軒茶屋方面に茶沢通りを進むと、
「北沢川緑道」という緑道がある。
その長さ、全長4.2kmの緑道で、僕も友人と春には毎年花見を楽しむ場所。
ここね、かなりおすすめなんです。
下北沢の喧騒からはだいぶ離れるんですけど、
静かで小川のせせらぎもあって。
そしてこの場所にはかつて日本近代文学の隆盛を担った多くの文人が暮らしていた。
斎藤茂吉、萩原朔太郎、中村汀女…etc.
この道を散策すれば、ひょっとしたら何かが生まれるかも!?
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かつて4年間暮らした町、下北沢。
好きだったお店は無くなり、確かにその表情は変化していた。
でも町そのものの雰囲気は少しも変わっていなかったように思う。
それはやはり受け入れる側の個性、
下北沢という町の個性が来る物に負けないくらい強いから。
音楽、芝居、ファッション、映画etc.
発信されるエネルギーを常に受け止めている町、下北沢。
この町の強さを味わいに、ゆ~っくりとブラブラして下さい。
そしてお時間がある方は、かつて井門が暮らした家に手を合わせてみて下さい(笑)
きっと何かしらの御利益が…ないか…。
東京発どこ行くツアー!
さぁ、次はどこ行く?